ドバイ移住に必要な主要ビザ制度の概要と要件比較

はじめに

中東のビジネスハブであるドバイは、所得税ゼロなどの税制優遇や安全な生活環境を背景に、富裕層投資家や起業家にとって魅力的な移住先となっています。

特に近年、UAE(アラブ首長国連邦)では長期滞在を可能にするゴールデンビザをはじめ、リモートワークビザ(バーチャルワークプログラム)不動産投資ビザ起業家向けビザなど多様なビザ制度が整備され、家族での移住や法人ごと移転するケースも増えています。

以下では各ビザ制度の概要や取得要件、家族帯同の可否、税務上のメリット・義務について解説し、最後に簡単な生活コストの目安も紹介します。

ゴールデンビザ(長期居住ビザ)

ゴールデンビザはUAEが優秀な人材や投資家を呼び込むために導入した長期居住ビザで、有効期間は5年間または10年間(更新可)と非常に長いのが特徴です。

スポンサー(現地雇用主等)が不要で、自身の名義で長期滞在できる点が他のビザと大きく異なります。

ゴールデンビザ保持者は通常必要とされる「半年以内の再入国」要件(6か月ルール)が免除され、UAE国外に長期間滞在してもビザが無効になりません。さらに配偶者や子どもを年齢制限なく帯同(スポンサー)可能であり、家族も主要申請者のビザ有効期間中は滞在資格が保障されます。

取得要件は複数のカテゴリーがありますが、主に以下のような条件を満たす必要があります:

  • 投資家: UAE内の認可投資ファンドに200万ディルハム以上(約8,000万円)の投資を行う、または資本金200万AED以上の会社を所有する等の条件。不動産投資でも評価額200万AED以上の物件を購入すれば対象になります。
  • 起業家: 50万ディルハム以上(約2,000万円)相当の価値があるプロジェクトを所有し、かつ政府公認インキュベーターからの承認などを得ていること。先端技術や将来性のある事業であることを証明する書類(監査証明や所管当局からの手紙)が必要です。
  • 高度人材(タレント): 医師・科学者・芸術文化分野の著名人・発明家・経営幹部・専門技術者・博士号取得者・トップ学生などが対象で、それぞれ所管官庁からの推薦状や一定の職歴・収入(月給5万AED以上など)といった条件があります。分野ごとに細かな要件がありますが、例えば給与月額5万AED以上(約1,800万円/年)と学士以上の学位を持つエグゼクティブ人材なども含まれます。

このように条件は多岐にわたりますが、ゴールデンビザ取得者には個人所得税が課されないことに加え、家族全員がUAEに長期滞在することで本国の課税を回避できる可能性があるなど、大きなメリットがあります(日本を含む多くの国では年間183日以上国外に居住すれば非居住者扱いとなり所得税の対象外となるため)。

また前述のとおり、ゴールデンビザではUAE国内に継続居住する義務日数は定められていません。

一方で医療保険への加入は義務付けられており、ビザ申請時にも家族を含めた医療保険証書の提出が必要です。総じてゴールデンビザは資産と実績のある富裕層や起業家にとって、最も安定した長期滞在手段と言えます。

リモートワークビザ(バーチャルワークプログラム)

リモートワークビザは、UAE国外の企業に勤めたままドバイに住むことができる1年間有効のビザです。コロナ禍をきっかけに導入された「バーチャル働き方プログラム」とも呼ばれる制度で、現地で雇用されなくても自己スポンサーで滞在許可が下ります。

取得には「海外の企業にリモートで勤務していること」および「月額5,000米ドル以上の収入」を証明することが主な条件です。

具体的には、勤務先からの1年間以上の有効な雇用契約および月収5,000USD(約70万円)以上の給与証明(直近の給与明細と3か月分の銀行入出金記録)が必要とされています。自営業者や会社オーナーの場合は、自社の1年以上の稼働実績と月平均5,000USD以上の事業収入を示す書類(銀行残高証明など)の提出が求められます。

このビザは1年間有効で、更新したい場合は毎年再申請を行う形になります。

リモートワークビザ保持者もドバイで家族を帯同可能で、申請時に家族分の許可を得ることで配偶者や子どもも一緒に滞在できます。ビザ費用は手数料等込みで一人当たり約USD 287(約3.8万円)とされ、加えてUAEで有効な医療保険への加入も必要です。

税制上のメリットとして、ドバイ滞在中の給与所得についてUAEでは所得税が課されません。ただし勤務先が所在する国や本人の出身国によっては引き続き所得税納税義務が残る場合もあるため注意が必要です(日本の非居住者になるためには基本的に年間の国外滞在日数が183日を超えること等が要件)。

リモートワークビザそのものには最低滞在日数の義務は明記されていませんが、一般的なUAE居住ビザと同様に6か月以上連続で国外に出ると失効する可能性がある点には留意しましょう(ゴールデンビザを除き、通常の居住ビザは半年以上不在で無効となる規定があります)。

リモートワークビザは、現在の仕事を維持しつつドバイに居住したい方にとって有効な選択肢です。

不動産投資ビザ

不動産投資ビザは、ドバイで一定額以上の不動産を購入・所有した外国人に発給される居住ビザです。目安として評価額75万ディルハム以上(約3,000万円)の不動産を取得すると、2年間有効の居住ビザを申請できます。

このビザも更新可能で、物件所有を継続する限り延長が認められます。物件がローン借入中の場合は、評価額の少なくとも50%以上(または最低75万AED)を返済済みであることが条件となります。

夫婦で共同名義購入した場合でも合算評価額が最低額を超えていればビザ申請が可能です。

不動産投資ビザでは配偶者や18歳未満の子女を家族ビザとして帯同させることができます(18歳以上の子については就学中である等の条件で延長可能)。また最近の制度改正により、評価額200万AED以上の不動産を購入した場合は5年有効のゴールデンビザ(不動産投資家枠)が取得可能となりました。

このゴールデンビザを取得すれば前述の通り居住期間や家族帯同の条件がさらに緩和されるメリットがあります。いずれの場合も、不動産取得を通じてドバイに居住することによる個人所得税のメリット(UAE国内での所得税ゼロ)は大きく、不動産賃料収入などがあっても課税されません。一方で通常の2年ビザでは連続半年以上の不在でビザが無効となる点に注意が必要です(定期的にUAEに入国する必要あり)。また不動産購入には4%の登記手数料(DLD登録料)など諸費用がかかる点も踏まえておきましょう。

総じて不動産投資ビザは、「資産運用を兼ねてドバイに移住したい」という富裕層個人投資家に適した選択肢と言えます。

起業家向けビザ・法人設立によるビザ

ドバイで会社設立や事業拠点の移転を検討している経営者には、いくつかビザ取得のルートがあります。まず前述したゴールデンビザの起業家枠を活用する方法があります(事業価値50万AED以上+承認書類が条件)。

これを取得できれば5年間の長期ビザが得られ、家族も帯同可能となります。次に、より幅広い事業家向けに新設されたグリーンビザ(5年)を利用する方法です。グリーンビザとは自分自身でスポンサーとなり5年間滞在できるビザで、従来は2年ごと更新だった投資家ビザを拡充する形で2022年に導入されました。

対象には、UAE内で事業を設立した投資家・パートナーも含まれており、発給要件としてはICP(連邦 الهوية والجنسية当局)による投資評価の承認や投資証明(複数のライセンスを持つ場合は出資総額合算)などが求められます。グリーンビザ保持者は雇用主に依存せず自分で家族をスポンサー可能であり、男性子息は25歳まで、未婚の娘は年齢制限なく家族ビザを継続できるなどメリットがあります。

有効期限も5年と長く、万一ビザが失効・取消になった場合でも最長6か月の猶予期間が与えられる柔軟性があります。

さらに、ドバイのフリーゾーン(経済特区)で会社設立を行い、その投資家/オーナー枠の居住ビザ(一般に2〜3年有効)を取得する方法も依然ポピュラーです。

これは出資金の最低額に明確な規定はなく、比較的少額の資本で法人を登記しビザ発給を受けることも可能です。

フリーゾーンでは外国人が100%会社所有権を持てる上、ビザ取得代行サービスも充実しているため手続きも容易です。

例えばドバイの〇〇フリーゾーンでは資本金ゼロでも会社設立でき、オーナーとして3年ビザが取得できるケースもあります。グリーンビザと異なりこの場合はスポンサーが自社(フリーゾーン当局経由)となるため、契約更新に合わせたビザ延長が必要であり、6か月ルールも適用されます。

税制面では、いずれのビザで起業・事業運営する場合でもUAE居住者個人には所得税が課税されない点は共通です。

ただし2023年よりUAEでも年間課税所得37.5万AED(約1.3億円)超の企業に対し法人税9%が導入されています(フリーゾーン企業でも条件次第で対象)ので、現地で法人収益が上がる場合はこの法人税への対応が必要です。

一方、事業所得に対する消費税(VAT)は5%と低率で、国際的に見ても税負担は軽い水準です。

総じて起業家・経営者にとって、ドバイで会社を設立して取得できる各種ビザは、ビジネス展開と資産保全の両面で大きなメリットがあります。自身の事業規模や投資額に応じて、ゴールデンビザ、グリーンビザ、フリーゾーンの投資家ビザなどを使い分けると良いでしょう。

主なビザ要件の比較表

以下に、ドバイ移住に利用される主要ビザの要件を比較表にまとめます(金額はAED=ディルハム表記)。

ビザ種類主な取得要件(最低投資額・収入など)有効期間家族帯同税制メリット・備考
ゴールデンビザ (長期)投資額200万AED以上(不動産含む)
または革新的事業(50万AED以上のプロジェクト価値)等
5年 or 10年(更新可)可能(配偶者・子ども無制限)所得税なし、国外長期不在でも維持
リモートワークビザ海外企業とのリモート雇用契約 + 月収$5,000以上1年(更新再申請で延長)可能(要家族分申請)所得税なし、6か月以上不在で失効恐れ
不動産投資ビザ75万AED以上の不動産購入2年(更新可)可能(配偶者・子※18歳未満原則所得税なし、6か月以上不在で失効恐れ
起業家向けビザ
(グリーンビザ等)
会社設立・出資(※出資額制限なし)5年(グリーン)または2–3年(通常)可能(配偶者・子※グリーンは息子25歳迄所得税なし、法人税9%(条件により適用)

※表中の「6か月以上不在で失効恐れ」とは、ビザ保持者がUAE国外に連続して180日(約6か月)以上滞在した場合に在留資格が取り消される可能性があることを指します(ゴールデンビザを除く)。

ドバイでの生活コスト概要

ドバイで家族と生活する場合、現地の生活コストも考慮が必要です。

以下に住宅費・教育費・医療費の目安を簡単にまとめます。

  • 住宅費: 地域によって差がありますが、例として市中心部の1LDK賃貸は月額約8,000AED(約32万円)、郊外なら約5,000AED(約20万円)程度が平均相場です。ファミリー向けの3LDKでは中心部で月15,000AED前後(約60万円)、郊外で約10,000AED(約40万円)と広さ・立地に応じて高額になります。
  • 教育費: 公立学校も外国人は有料で、年間授業料は6,000AED程度に抑えられています(授業言語はアラビア語)。一般的にはインターナショナル校など私立校を利用するケースが多く、年間12,000~65,000AED(約50万~250万円)と学校や学年によって大きく異なります。特に高校・大学進学となると年間1000万円近い学費がかかる場合もあり得ます。
  • 医療費: ドバイでは全居住者に民間医療保険への加入が義務付けられており、企業勤務の場合は会社が保険を提供することも多いです。自費で加入する場合でも政府承認の**最低限補償プラン(EBP)なら年間約650AED(約2万円)**から契約できます。民間医療は質が高い反面費用も高額になりやすいため、家族がいる場合は補償範囲の広いプランを選ぶと安心です。

以上、ドバイ移住に関連するビザ制度と生活費の概要について解説しました。

ビザごとに要件や特典が異なるため、ご自身の資産状況や目的に合わせて適切なものを選択してください。

特に税制面のメリットは大きい一方、各ビザには居住日数や更新手続き等の義務も伴いますので、本格的に移住を検討する際は最新の公式情報を確認し、専門家へ相談することをおすすめします。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、記載内容の正確性を保証するものではありません。ビザ制度や税制は予告なく変更される可能性があるため、最新情報や詳細な条件についてはUAE政府の公式発表や専門機関の情報をご参照ください。

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