はじめに
近年、日本の富裕層や投資家の間で「海外移住による節税」への関心が高まっています。
2025年の調査では、富裕層の約2割が“重税感”や社会保障不安を背景に海外移住を検討しており、特にシンガポール(41.4%)、マレーシア(30.3%)、ドバイ(30.3%)などアジア・オセアニア地域に人気が集中しています。
こうした国々は、所得税や相続税の低率・免除、安定した治安やインフラを特徴とします。
しかし実際の移住では、税法上の「居住者」判定やビザ更新など落とし穴もあります。本稿では、政府・会計ファーム・メディアの信頼情報を引用しながら、ドバイ(UAE)、シンガポール、マレーシアの税制・居住要件を比較し、成功例・失敗例、生活コストや移住ハードルをまとめます。
ドバイ(UAE)の税制と居住要件
税制の概要: アラブ首長国連邦(UAE)、とりわけドバイでは個人の所得税や相続税は課税されません。Bloomberg報道によれば「UAEでは個人所得、キャピタルゲイン、相続、贈与、不動産に課税しない」と明記されています。
法人税も2023年から導入され、年間売上高が1,000,000AEDを超える企業に対し9%の法人税が課されます。付加価値税(VAT)は5%で、全ての消費財・サービスに標準適用され(輸出など一部は0%または免税)。
たとえば高額所得者でもUAE域内のみの所得であれば、日本で課税される所得税の多く(最高45%)を免れる可能性があります。
ただし消費税や不動産取得税、物品税(タバコ・アルコールなど)には注意が必要です。
居住要件(税法上の非居住判定): UAE税務法における居住者判定では、「UAEに183日以上滞在する」「UAEに居住拠点かつ経済的利益が集中している」等の条件が示されています。
具体的には「連続12ヵ月間にUAEで183日以上の滞在」「UAE国籍者(またはGCC国籍者)で90日以上滞在かつ永住権・居所がある、またはUAEで事業・勤務を行っている」などが居住者要件となります。
日本の税法上「非居住者」扱いになるには、住民票を抜いて生活拠点を完全にUAE側に移す必要があります。住民票を残したままUAEに長期滞在しても日本で「居住者」と判定される可能性がある点に注意が必要です。
ドバイ移住のビザ・生活: ドバイ移住には現地ビザの取得が必須です。
主なビザには、就労ビザ(UAE企業・政府機関就職)、家族ビザ(配偶者・子ども)、不動産投資ビザ(750,000AED以上の不動産購入者)、ゴールデンビザ(長期投資家・専門家)、グリーンビザ(フリーランス/起業家)、リモートワークビザ(他国勤務のリモートワーカー)などがあります。
各ビザには年収や投資額の要件があり、条件は頻繁に更新されます。ドバイは日本人を含む外国人移住者を歓迎していますが、住宅費や教育費は高騰しており、インター校の待機リスクも生じています。
物価や生活費も高めで、快適生活には月収18,000~30,000AED(約70万~120万円)が推奨されています。
一方、日本と比べると所得税・相続税がない分、税負担は大幅に軽くなるメリットがあります。
シンガポールの税制と居住要件
シンガポールはアジア有数の金融都市であり、先進的な税制が魅力です。
個人所得税は累進課税で最高24%(2025年現在)ですが、税額控除や非課税枠が多く、日本よりは低税率です。
Bloomberg報道でも「居住者の所得税率は22%、法人税は17%」とされており
、金額換算では収入4,563SGD(月約35.5万円)で物価は日本より高め(特に住宅費)ですが、日常の交通費やローカルフードは安価との指摘があります。
シンガポールには相続税・贈与税がなく、キャピタルゲイン税も非課税です。
金融資産の移動や不動産投資収益も課税されないため、富裕層にとって税務面で有利な環境と言えます。
居住要件は、基本的に「シンガポールで暦年に183日以上滞在、または3年間継続して就労・居住歴があること」などです。非居住者の所得には原則として24%の定率課税が適用されます。
シンガポール滞在者の数は日系で約3.6万人(2017年)と多く、英語が公用語で医療・教育の水準も高いことから、家族帯同移住者にも人気があります。
ただし住宅取得費や留学費用は大都市圏並みに高額となるため、十分な資金計画が必要です。
マレーシアの税制と居住要件
マレーシアは高い生活水準と低価格を両立した国として注目され、税制面でも恩典があります。
個人所得税は累進で最高30%ですが、外国人労働者向けの15%特別税率制度など優遇策もあります。
居住判定は「暦年で182日以上滞在」が基本で、非居住者への所得税は原則30%です。マレーシアには相続税・贈与税がなく、純資産税も存在しません。不動産売却益は一定条件下で課税されますが、それ以外のキャピタルゲイン税は基本的に免除です。
移住プログラムとしては「マレーシア・マイ・セカンドホーム(MM2H)」ビザがあり、財産証明や年金収入要件(2024年以降改定)を満たせば長期居住権を取得できます。フォーランド社によれば、マレーシアの物価水準は日本の約1/2~1/3と非常に低く、住宅費・交通費などの生活コストも格段に安いとされています。
例えばクアラルンプールは世界都市ランキングで東京より生活費が大幅に安い都市と評価されており、日本円での家計支出を抑えつつ高い生活品質を享受できます。
移住成功事例(節税・生活面での成果)
実際にドバイやシンガポールなどへ移住した富裕層の中には、移住前に日本で約40%を超える所得税率がかかっていたところ、移住後は所得税・相続税が事実上ゼロとなり、年間数千万円単位の税負担減を実現した例も報告されています。
特にドバイ在住者は「日本で課税されていた所得がドバイでは非課税になった」「家族の教育費はかかるが税負担減で全体的な可処分所得は増えた」といったメリットを語ることが多いです。一方シンガポールでは、富裕層向けの税優遇や投資プログラムを活用し、遺産計画を見直すなど資産保全に成功した事例があります。シンガポールが相続税・贈与税ゼロである点は大きく、日本と比較して「富が家族に残りやすい」と評価されています。
移住失敗事例と注意点
一方、計画通りに行かないケースもあります。最大の失敗例は日本で税務上の居住者とみなされ続けたまま移住してしまい、想定外の納税が発生するパターンです。日本の国税庁も明示するように、「海外に183日以上滞在していても、日本国内に生活の本拠(住所や居所)があれば日本の居住者と判定され得る」ため、住民票を抜くだけでなく、日本での資産や家族関係、生活基盤を断ち切る必要があります。
例えば海外でリモートワークをしていたにもかかわらず住民票を残し続けていた個人は、日本に所得税を納める義務が残ってしまいます。
また、日本国内に「恒久的施設」(賃貸不動産や事務所など)が残っている場合、その所得には日本で課税されることもあります。
ビザや在留資格の管理も重要です。ドバイなどUAEでは、ビザ有効期間が過ぎたのに手続きを怠ると**不法残留(オーバーステイ)となり、日額で罰金が科されます。報道でも指摘されているように、ドバイは人気ゆえ不動産価格や学費が高騰しており、当初想定より経済的負担が増大することがあります。
移住先で働けるビザ条件を満たさずに仕事を始めたり、子どもの教育計画を詰めずに渡航すると、生活設計が狂うリスクがあります。これらは節税以上にライフスタイルに直結する問題ですので、移住前に十分な情報収集と専門家相談を行うことが肝要です。
生活コスト・移住ハードルの比較
移住先の選択では税制以外にも生活コストや移住ハードルを比較する必要があります。ドバイでは安全性やインフラの高度さが評価される一方、住宅賃料や光熱費、子女のインター校費用は世界的に高水準です。例えば、ドバイで快適に暮らすには月収約70万~120万円(18,000~30,000AED)が必要とされ、日本の平均的な家計支出(月約30万円)より高くなります。
一方シンガポールも狭い国土ゆえ住居費が高く、賃貸物件は都市部で家賃が相当額になるケースが多いです。総じてドバイ・シンガポールの物価は日本より高く、通貨も円安の影響を受けやすいため、税負担削減効果とのバランスを検討しなければなりません。
対照的にマレーシアは東南アジアでも物価が安く、日本の生活費のおよそ半分程度と言われます。米マーサー調査でもクアラルンプールは東京より生活費ランキングがかなり低い都市と評価されています。食費や光熱費、公共交通費が安い上、医療・教育インフラも充実しており、住民税もかかりません。ただし、長期滞在にはMM2Hなどのビザ取得が必要で、年齢や資産要件(2024年以降は従来より厳格化)があります。また言語は英語とマレー語が公用語で日本語対応は限定的ですから、日常生活では英語習得も移住のハードルになります。
いずれの国も医療・教育・治安などは比較的良好ですが、日本とは制度や商習慣が異なります。特に金融面では、海外送金手数料や為替変動リスクも考慮する必要があります。Wiseなど国際送金サービスを活用することで送金コストを下げられるケースもありますが、事前に銀行や税務面での手続きも整えておくことが重要です。最後に、現地の法律・税制は頻繁に変わるため、移住先での公的情報(政府サイトや信頼できる会計事務所の税務情報)を常に確認し、専門家の助言を受けることが、リスクを避ける第一歩となります。
参考資料: UAEやシンガポール、マレーシアの公式税務情報taxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.comtaxsummaries.pwc.com、ゴールドオンライン記事gentosha-go.comgentosha-go.com、Bloomberg記事bloomberg.co.jpbloomberg.co.jp、国税庁タックスアンサーnta.go.jp、外務省ドバイ領事館情報tokutenryoko.com